臨床の紹介

臨床の紹介

秋田大学循環器内科は、緊急性の高い急性冠症候群や致死性不整脈、急性心不全、専門的な診断を必要とする弁膜症や心筋症、生活習慣病を基盤とする動脈硬化性疾患の治療から予防に至るまで、多岐にわたる心血管疾患の診療を行っています。循環器救急疾患を24時間体制で受け入れているだけでなく、重症心不全、心臓外科手術適応、成人先天性心疾患、肺高血圧症、大動脈炎など、専門性の高い高度な循環器医療を必要とする症例も積極的に受け入れています。また構造的心疾患治療に代表される新規治療技術や最新の医療機器を導入し、秋田県最後の砦として、大学病院ならではの質の高い医療を提供しています。

当科の臨床診療の概説図を下記に示します。

日本でも随一の高齢化社会である秋田県では、心血管疾患を有する患者さんの割合も年々増加しています。予防医療に始まり、急性期から慢性期にかけて綿密な診療体制を確立し、患者さん一人ひとりに最適な医療を提供することが私たちの理念です。

循環器内科の扱う疾患や病態は幅広く多岐にわたるため、当講座では循環器学(cardiology)を、カテーテル治療や植込み型デバイス治療などの侵襲的な治療を”invasive cardiology”と、主にイメージングモダリティを駆使した診断学や予防医学などの内科的要素を”non-invasive cardiology”という2つの概念でとらえています。若手医師は両方の「循環器学」を学び、研鑽を積んだ後に各分野のスペシャリストを育成しています。

【先進的臨床事業紹介】遠隔心臓超音波検査

背景

秋田県は全国6位の広大な面積を有する高齢化先進県であるが、医師不足ならびに偏在の問題もあることから、医療の均てん化が課題となっている。循環器診療における超音波検査は診断ならびに病態把握に極めて重要であるが、画像の描出およびその判読には修練を要する。また、超音波技師の技術を育成するにも専門医が必要であるが、専門医不在の地域も多く、その地域格差もまた問題となっている。さらには、2020年以降始まった新型コロナ感染症蔓延によって、人と人との物理的接触に制限がかり、医療行為自体も困難となった社会的背景も重なって、オンライン診療の需要が急速に高まったことは記憶に新しい。それらの問題を解決する一助としてタブレット型超音波装置(Lumify®、 Philips社)が開発されたことを受け、それを導入した「遠隔心臓超音波検査」を確立することとした。

方法

最初に、大学病院から約100km離れた雄勝中央病院で開始した。インターネット回線をつないだタブレット型超音波装置を使用し、生理検査技師が超音波検査を実施する。その検査動画はリアルタイムで秋田大学病院に転送され、コンピュータにインストールされたアプリケーション「Reacts」を通じて描出される。その動画を超音波専門医が、 検査者と会話をしながら描出画像のリクエストや、描出方法のアドバイス、そして所見に関するディスカッションを行いながら検査を行う。動作に問題の無いことを確認した後、雄勝中央病院以外の県内4か所の地域中核病院(大館市立病院、能代厚生医療センター、由利組合総合病院、大曲厚生医療センター)との連携も開始し、同様のシステムを確立した。なお、画像共有システムにおける電波回線は強固なセキュリティアーキテクチャで暗号化されたプライベートネットワークを使用しており、個人医療情報の漏洩には細心の注意を払っている。

有用性

2021年に運用を開始し、秋田県内5病院との遠隔検査を行っている。その中で特に有用性を実感するのは、診断や治療方針決定に迷う症例や大学病院に紹介すべきかどうか悩ましい症例について、遠隔超音波検査を通じて相談することが出来ることである。とりわけ、近年は構造的心疾患治療の普及に伴い、その適応判断に心臓超音波検査の重要性が増している。僧帽弁逆流症の成因について判定し、経食道心臓超音波検査実施の適否判断に使用した症例も複数例経験した。心不全パンデミック時代において、超高齢社会最前線にある秋田県では循環器診療は今後もその需要が増していくことから、遠隔心臓超音波検査は今後も患者および医療者の双方にとって重要な診療ツールとなっていくことが予想される。地理的な問題で総合病院への受診が困難であったり、その総合病院にも循環器専門医が不在であったりという地域医療が抱える問題に対して、遠隔超音波検査は解決の一助となる可能性がある。

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